本書は、タイトルから伝わるように、奄美大島の砂糖が薩摩藩の財政を潤していたことに迫ろうとするものである。
著者の大江修造は、奄美大島の砂糖生産に、琉球王の末裔として代々かかわってきた田畑家の血筋を引くという。したがって、本書は薩摩藩の財政が明治維新に及ぼした影響を主題とするが、自らの源流を描き出そうとする家族史といえなくもない。本書の構成は次のようになる。
第1章「薩摩藩vs奄美大島」では、かつて琉球王国に属していた奄美大島が薩摩藩という日本の版図に組み込まれる過程を、田畑家を引き合いに出しながら迫る。第2章「徳川幕府vs薩摩藩」では、薩摩藩に組み込まれた奄美大島の立ち位置を、砂糖にかかわる政策から読み取る。第3章「幕末・なぜ日本は植民地化されなかったのか」では、幕末の薩摩藩の軍事力が奄美大島の砂糖から得られた収益に由来することを指摘する。第4章「奄美の砂糖が明治維新をもたらした」では、幕末の薩摩藩の軍事力整備の実態を追う。
全編を通じて、著者の眼差しは隠蔽されてきた薩摩藩の財政をひもとくことにある。しかし、「カギ」となるはずの薩摩藩の財政史料は、明治時代初期の鹿児島県令(現在の鹿児島県知事に相当)、大山綱良らに焼却されてしまったという。では、奄美大島の砂糖をどうやって、「薩摩藩隠された金脈」として裏付けるのか。それは、本書に譲ることとしたい。
本書の主題からそれるが、著者の専門は「化学工学のなかの蒸留工学」であるという。奄美大島といえば、砂糖黍からつくられた黒砂糖を原料に、蒸留してつくられる黒糖焼酎が有名だ。本書では、島津綱貴が薩摩藩主だった貞享4(1687)年に、田畑家当主の為寿佐育が鹿児島の藩庁に赴いた際の献上品目録が引用されている(p.140)。その中に「焼酎」の文字が見出せるが、原料はわからない。果たして砂糖黍からつくられた焼酎だったのだろうか。薩摩藩の財政を潤した希少で高価な砂糖が、焼酎の原料として利用されていく時期も知りたくなってくる。