書評

調査研究にあたって、読んだ書籍の数々。

からゆきさんを描く葛藤(書評:森崎和江『からゆきさん:異国に売られた少女たち』東京:株式会社朝日新聞出版2016.8[底本は、朝日新聞社1980.11とし、改題。原書は、朝日新聞社1976.5])

著者: 恩田重直  投稿日: 2023/07/26, Wed - 07:00
日本における女性史の先達、森崎和江。同時期に森崎に助言を求めてからゆきさんを調査した山崎朋子が、底辺女性史として『サンダカン八番娼館』を著して大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど時代の寵児となる一方、研究者から圧倒的な支持を受けていたのは森崎和江の作品だった。世間一般と研究世界の評価の違いはどこにあるのか。『からゆきさん』はじめ、一連の森崎作品から読み取る。

希少で高価だった砂糖(書評:大江修造『明治維新のカギは奄美の砂糖にあり:薩摩藩隠された金脈』アスキー・メディアワークス2010.3)

著者: 恩田重直  投稿日: 2023/07/25, Tue - 07:00
明治時代以前、日本の版図では砂糖の原料となる砂糖黍生産は非常に少なかった。砂糖は高値で取引され、砂糖を使ったスイーツは庶民には中々味わうことができない代物だった。琉球王の末裔という著者が、奄美大島の砂糖が生み出した薩摩藩の潤沢な財政に切り込み、明治維新の源流に迫る。

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明治初期、測量技術をめぐる人間模様(書評:泉田英雄『明治政府測量師長コリン・アレクサンダー・マクヴェイン:工部省建築営繕、測量、気象観測への貢献』文芸社2022.4)

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/08/21, Sun - 10:00
幕末から明治にかけて日本を襲った西洋化の大波。国土を把握するのに欠かせない測量技術もまた、西洋からのお雇い外国人に頼らざるを得なかった。明治政府に測量師長として任用されたマクヴェインの足跡を、新たに発掘した史料からたどる一冊。これまで明らかにされてこなかった、その業績やいかに。そして、背後に潜む人間ドラマ。

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つくられた倭寇像(書評:東京大学史料編纂所編『描かれた倭寇:「倭寇図巻」と「抗倭図巻」』吉川弘文館2014.10)

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/08/08, Mon - 08:00
東京大学史料編纂所が所蔵する「倭寇図巻」、中国国家博物館が所蔵する「抗倭図巻」「太平抗倭図」をオールカラーで紹介する一冊。最新の高精細デジタルカメラによる赤外線撮影による成果が描かれた内容を特定する。描かれた倭寇は、果たして真実なのか。

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社会に問われた研究成果(書評:宮田絵津子『マニラ・ガレオン貿易:陶磁器の太平洋貿易圏』慶応義塾大学出版会2017.11])

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/05/10, Tue - 22:00
大航海時代、アジアの海には西欧諸国の海船が頻繁に出没するようになった。スペインは、フィリピンのマニラとメキシコのアカプルコを結ぶガレオン貿易を確立する。交易によって西欧にもたらされたアジアの商品の数々。陶磁器に着目して、その実態に迫る。そこから何が浮かび上がってくるのか。

小説家の取材力(書評:城山三郎『鼠:鈴木商店焼打ち事件』文藝春秋1966[文庫版:文藝春秋1975.3、2010.7(第42刷)]

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/05/08, Sun - 20:00
大正時代に世界有数の商社にのし上がった鈴木商店。昭和初期に破綻したとはいえ、そのDNAは日商岩井(現双日)、神戸製鋼、帝人、石川島播磨重工業……に引き継がれている。つくられた悪のイメージの正体を小説家・城山三郎が暴く。そこには、小説家の取材力がある。

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世の中の不条理(書評:松本清張『中央流沙』河出書房新社1968.9[文庫版:中央公論社1974.5、文庫改版1998.9、文庫改版4刷2009.12])

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/04/25, Mon - 20:00
日本が誇る社会派推理小説の巨匠、松本清張が砂糖の輸入割当をめぐる官庁汚職を描く。高度経済成長の真っただ中の日本で繰り広げられる壮大な汚職。その顛末やいかに。

問われる歴史研究の枠組(書評:榎本渉『僧侶と海商たちの東シナ海』講談社2010.10[文庫版:講談社2020.10])

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/04/17, Sun - 10:00
教科書には書かれていない日本の僧侶の中国渡航の真実。遣唐使に代わって台頭してくる海商が僧侶たちを中国へと誘う。中国への渡航手段の変化は、僧侶の中国での活動にいかなる変化をもたらしたのか。長期的な時間が明らかにする東シナ海を通じた東アジアの交流、そして考えさせられる歴史研究の枠組。

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通史を書くことの難しさ(書評:矢部良明監修『【カラー版】日本やきもの史』美術出版社1998.10[増補新装版:2018.5])

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/04/03, Sun - 15:00
美術史から見た日本のやきもの史。縄文時代から現代まで、1万年以上にわたる歳月を通観する。美術史はやきものの歴史の何を繙いてくれるのか。

民芸のこれから(「日本民藝館展」参観記+書評:鞍田崇『民藝のインティマシー:「いとおしさ」をデザインする』明治大学出版会2015.3)

著者: 恩田重直  投稿日: 2022/03/30, Wed - 14:30
民芸とは、「庶民の生活の中から生まれ、その地方に特有の風土、風物、情緒、習慣などを表現した芸術」(『精選版日本国語大辞典』)とされる。そんな民芸への理解を五感で深めることができるのが日本民藝館だ。2021年12月の「日本民藝館展」参観記と、民芸の現代的意義を問う『民藝のインティマシー』の書評をあわせてどうぞ。

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